渦、キャビテーション、ウォーターハンマー Vortex, Cavitation, Water Hammer
● 農林水産省のホームページ
● うずのはく離
〇 渦流速計
〇 ボルテックスジェネレータ
● 物体の周りの流れ
〇 速度分布
〇 圧力分布
● キャビテーションとウォーターハンマー
〇 キャビテーション
〇 キャビテーション数 Ca
〇 水のキャビテーション
〇 ウォーターハンマー
〇 ウォーターハンマー起因のキャビテーション
● 農林水産省のホームページ
農林水産省のホームページに、キャビテーション、ウォーターハンマー対策の計算手順が記述されています。実務上参考になると思います。
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結論として、下記が記されています。
 このホームページでは、計算手順の説明ではなく、流体の渦、キャビテーション、ウォーターハンマーが何かをわかりやすく説明したいと思います。
● うずのはく離
 旗が風ではためく、風で電線がうなる、橋脚の下流側の水草が揺れるなど、物体に沿って流れる流体が、流速が速くなるなどの理由で物体からはく離する際に渦が発生します。
下の絵のように、円形断面の物体に風が当たると、後面に交互に規則正しくはく離渦の列が発生します。これは、カルマン渦と呼ばれています。規則正しく渦が発生するので、空気が振動して、音として聞こえます。細い木の枝に当たると高音の風の音になり、太い木の幹では低い音になります。風速でも音程が変わります。
〇 渦流速計
 渦を積極的に利用しているものもあります。渦流速計は、渦を強制的に発生させて発生の周期から流速計測をします。カルマン渦による音の周波数は次式で与えられます。
ここで、Stはストローハル数と呼ばれるもので、レイノルズ数と関係があります。ある実験では、下図のような関係になったそうです。
 赤の領域のストローハル数は、レイノルズ数の逆数の関数で近似できるということです。試しに、上の図から数値を読んで回帰式を作ってみました。左がウェブサイトの式、右が3次の回帰式です。
渦流速計は、その速度計で使っている渦発生器の周波数と流速の関係を計測して同様の式を作り、計測時は、そのストローハル数と音の周波数から速度を求めているのだと思います。
〇 ボルテックスジェネレータ
 1930年代に、ディンプル付きのゴルフボールの飛距離が大きいことは経験的に知られていたそうです。乱流境界層は、層流境界層よりはがれにくいので、航空機の翼から空気がはく離するのを抑えて、高揚力化や、方向舵、水平尾翼の効きを向上させるために、ボルテックスジェネレーターが使われています。
 自家用車の中には、ドアミラーや、車体の外側についているリアウィンカー、ルーフエンドに小さな流線形の突起がついているものがありますが、これはボルテックスジェネレーター(渦発生器)と呼ばれ、小さな規則的な渦を発生させることで、不意に発生する大きな渦で車に振動が発生したり、挙動が不安定になることを防いでいます。高速走行時に空気抵抗を減らす効果もあります。
● 物体の周りの流れ
 粘性ゼロ、非圧縮性と想定して物体の周りの流れを考えると下の絵のようになります。この条件ではせん断力はゼロです。ベルヌイの式を解くと、圧力の式が得られます。圧力を積分すると、物体にかかる流体力が計算できますが、ゼロになります。(ゼロになるので、詳細は割愛します。)
レイノルズ数が20以下では、この絵のように流れるそうですが、風の音が聞こえたり、旗がたなびいたりする際のレイノルズ数はそれより大きく、物体の後面では流れが物体からはく離して、カルマン渦が発生します。
〇 速度分布
円柱周りの速度分布は、次式で与えられます。
十分遠い距離での速度Uで無次元化したグラフは下記のようになります。の半径 a=20mm の場合の速度分布は、円柱からの距離 rで 下のように計算されます。角度θ=0は、各グラフの左端になります。X方向無次元化速度は、100mmの距離ではほぼ1になります。
〇 圧力分布
ベルヌイの式より、物体表面の圧力分布は次式で与えられます。
Uは、円柱より十分離れた位置の速度です。その地点での圧力を考慮した、物体表面 r=a の圧力分布は次式で表されます。
角度による圧力変化を見るために、次式の係数を考えます。
Cpは、次のグラフのようになります。
角度30度でCpはゼロになり、150度までは負の値になります。圧力が負になると、どこかで物体から流れがはく離することが示唆されます。
ここで、ストローハル数を思い起こしてみましょう。ストローハル数は、レイノルズ数の関数として与えられますが、200
 直径が小さいほど高音で、風速が速くなるほど高音になるようです。音が出ているということは、カルマン渦ができているということなので、流れは物体からはく離していることになります。数式でどのような条件になったらはく離するかを期待した方には申し訳ありませんが、流体の解析は複雑なので、定性的な説明とさせていただきました。
● キャビテーションとウォーターハンマー
〇 キャビテーション
 流体の流れの中で、圧力差により短時間に発生する泡(空隙)をキャビテーションといいます。気泡は、発生と消滅が短時間で起きます。
 キャビテーションが発生すると、ポンプ(プロペラ、スクリュータイプ)能力の低下、消滅時の衝撃波での破損などの問題が発生します。
 ポンプの使用場所によっては、ロール冷却不足、推力不足などが顕在化します。逆に言うと、顕在化するまでわからない場合が多く、顕在化しても他の要因が主原因だと推定してしまう場合もあります。(個人的な反省も入っています。)
 キャビテーションの発生原因は流速が速い、流路の不適など種々ありますが、発生条件はわかっているので、事前に対応しておくことができます。
 万が一、流体中のものが破損した場合は、キャビテーションが発生する条件だったのかを確認することが重要となるので、メンテナンスマニュアルなどで決めておくといいと思います。
〇 キャビテーション数 Ca
 キャビテーションの泡内部は、流体の蒸気で飽和しているので、流体の圧力と蒸気圧の差の無次元数をキャビテーション数といい、Ca=1でキャビテーションが発生します。
 キャビテーション数Caは、ベルヌイの定理からもとめることができます。
 p = pv + 0.5 ρu^2
 Ca = ( p - pv ) / ( 0.5 ρu^2 )
 ここで、p: 絶対圧力、pv:蒸気圧、0.5ρu^2: 動圧(代表圧力)
  ρ:流体の密度、u:流れの代表速度
〇 水のキャビテーション
 下のグラフは、水のキャビテーション数を圧力を変えて計算した結果です。
 10kPa(大気圧レベル)では流速0.5m/s程度でCa=1になります。505kPa(水道水の蛇口でのおおよその圧力レベル)では、1m/sでCa=1になります。Ca=1で必ず問題が起こるわけではありませんが、原因となる可能性はあります。
 必要な速度でCa<1にするためには、圧力を大きくします。圧力が大きいと、線図はグレーの線のように右上に移動するので、2020kPaの圧力水では、Ca=1になる速度は2m/sと大きくできます。
 圧力を大きくする方法は、なるべく低い位置に配管を設置する、別タンクやアキュムレータから補水可能な回路にすることがあげられます。圧力をかけられない場合は、配管径を大きくするなどで流速を下げることが効果的だと思われます。
〇 ウォーターハンマー
 リンゴが木から落ちて地面に衝突すると、速度が急にゼロになり、衝撃が発生します。それと同じ現象の流体版がウォーターハンマーです。まず、固体の衝撃を考えてみます。固体の衝撃の程度は、「急」の程度によります。これは、時間で計測することができます。落下直前の運動量が、何秒でゼロになるかで衝撃荷重を定義すると、例えば粘土は自分がつぶれるのに0.5秒かかり、鉄球は0.01秒後に跳ね返るとします。運動量は質量と速度の積です。衝突直前の速度、質量が同じ場合は、速度比に反比例します。鉄球の衝撃荷重は、粘土の50倍ということになります。
 流体のウォーターハンマーは、配管内の流れを急に止めたときに、流体の慣性で発生する衝撃です。固体の場合と違って、連続体は目では見えないので音の例がよく使われます。家庭のレバー式の水道を全開から急に全閉にすると、カンという音がしたり、同時に壁の中でも音がしたりします。壁の中の音は配管の固定が甘いと配管が揺れて何かに当たっているのかもしれませんが、これらはウォーターハンマーが原因で発生しています。
 粘土は衝撃力を吸収して潰れますが、鉄球は、衝撃力の一部を吸収し、残りでバウンドします。次第にバウンドが小さくなり、最終的には粘土と同様に下に落ちて止まります。流体を急に止めた場合も同様な現象が起きます。圧縮性流体は、閉止弁に当たった部分の密度が高くなり、その分どこかの密度が減少するでしょう。さらに、圧力が変動し、流体自体も振動すると推測されます。非圧縮性流体では、密度は変化しませんが、圧力が変動すると推測されます。どちらの流体でも、変動は減衰して最終的に変動がなくなります。最初の圧力変動が最大で、これをウォーターハンマーと言います。
〇 ウォーターハンマー起因のキャビテーション
 ウォーターハンマーで圧力変動が発生しますが、この時の負圧が、キャビテーション発生圧力になっていると、キャビテーションが発生します。
 キャビテーションが発生すると、流体の一部が気体になり、流体が切れた状態になるので、水柱分離と呼ぶそうです。キャビテーションとウォーターハンマーはそれぞれ単体でも問題なので、同時に発生する水柱分離は、大きな問題に発展する可能性が高いと思われます。
 前に記述したキャビテーションの防止対策に加え、流路の急停止の対策が必要になります。例えば、電源喪失時にポンプが急停止するのを防止するためにフライホイルを使うなどです。
 最初に紹介したした農林水産省のホームページに、サージタンクやフライホイルなど、ウォーターハンマー対策の計算手順が詳しく書いてありますので、参考にしてください。同ホームページによれば、エアチャンバーも効果があるとのことです。
Author: T. Oda
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